岡﨑乾二郎

TOPICA PICTUS ラ・シェネガ

2021年7月17日 - 8月14日
 
Los Angeles

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Blum & Poe (ロサンゼルス) では、東京を拠点とする岡﨑乾二郎による「TOPICA PICTUS  ラ・シェネガ」を開催いたします。本展で紹介される20点の抽象絵画と合わせ、各作品に呼応するように書かれたエッセイ、参照イメージ (群)もまた、本シリーズを構成する重要な要素として、観る者に複層的な鑑賞体験を与えます。岡﨑を迎え、初の個展開催となる本展は当ギャラリーでは4度目の作家が参加する展覧会となります。

コロナ禍でアトリエに篭り、約150点の作品に集中的に取り組んだ本シリーズは、断ち切れた時間や空間的孤立、実体を持った経験が失われてしまったような状況への応答のように制作されました。岡﨑は、むしろこの状況は「どこにも行けないがゆえに、どこにでも行ける」ことを可能にしてくれたと語っています。絵画制作の過程で、岡﨑は絵画が抱えこんできた、さまざまな問題を場所のように発見します。いわば、それぞれの絵画一つ一つが、それぞれ固有の問題に向き合い、それぞれ固有の場所 (トポス)を出現させていく。「TOPICA PICTUS」の『トピカ』とはアリストテレスの「Ars Topica=Topics (弁証術)」から由来する、場所を示すトポスと結びついた語です。絵画の制作と並行して、岡﨑はこのような制作プロセスで起こった思考の流れをなぞるようにエッセイを書きました。岡﨑が制作の過程で想起した、アフリカ民族の仮面、装飾・彩色写本、鎌倉時代の絵巻、桃山時代の日本画、ルネサンス、印象派、モダニズムアートなどの美術史的な対象のみならず中世の地図、ダンボ、パールハーバー、グーグルアースのイメージにいたるまで、時間や空間、文化差を超えた、さまざまな文学作品、芸術作品の間をつなぐ、思いもかけなかった、さまざまな感性や思考のネットワークがそのつど広がるのを、鑑賞者のわたしたちも読み取ることができるでしょう。岡﨑はこのプロセスを、天体力学における三体問題と関係づけ、「3つあるいは4つの星の群が、それぞれの重力に影響を与え合うとき、これらの星たちの動きは予測不可能となる・・無数の活動が作用しあい、絡み合う、そして全体が動く・・」と述べています。岡﨑の絵画は、トポス (場) を周遊し続ける作家の類まれな視覚と文章を通した物語のための創造の現場なのです。

その一例として、4点組の出品作品「Antaninaomby / Ataokoloinona (Water a Strange Thing) 水のヘンテコなもの」、「 Kilimanjaro / Wakonyingo (Bring negative spirits) カラッポのたましいを運ぶ」「 Asase Ya /河を産めば畑をうるおすさ 」「Nyame/空はなんでもみているさ」では、数学的なシンメトリー、アフリカの神話、べドゥ族の仮面、フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニの人体図、擬人化された17世紀の地図、そしてデイヴィッド・スミスの立体作品が関連づけられています。

また 「Hina-phases of the moon ,Tunaroa-the father of eels/月日の満ち欠け」 (2020年) には、様々な物語が与えられています。岡﨑のテキストには、輪郭の周りのわずかな陸地以外はほとんどが海のトンガレバ島 (クック諸島に属するペンリン環礁) が登場します。さらに、ポリネシアの月の化身の女神ヒナが恋人ツナの頭を切り落とし埋めた場所からココナッツが生まれたという神話について語ります。「te roro o te Tuna」(ツナのノウミソ) である二つに割ったココナッツ白い果肉の形態が、トンガレバ島の形状と結びつけられているのです。さらに、ココナッツとなったツナの目から涙が流れる様子を描いたフリーダ・カーロによる絵画「Weeping Coconuts」(1951年、ロサンゼルスカウンティ美術館所蔵) も関連づけられています。

一方で、木のフレームのカットアウトによって垂直に貫かれるような印象を持つ「Open Sea/潮水の波、真水の滝」(2020年) では、一つの作品の中に、紫と黒の横方向のストローク、しぶきをあげる滝のような青の筆致、さらにそれらに挟まれるようにして縦方向に描かれた裂け目のような絵具の痕跡が存在しています。そこには吹き込む風雨を激しく垂直的な動きで描いたジョン·コンスタンブルの「海をおそう暴風雨」(1824–1828年頃) に描かれた形式が認められると同時に、クロード·モネの「At Sea, Stormy Weather」(1880年) に見える波のうねりの様子が直感的な質感で捉えられ、さらには海北友松の螺旋状の雲の間から登場する龍を力強いタッチで描いた「雲龍図」(1599年) に宿された没頭と転生といった感覚もまた想起されます。このようにして、「TOPICA PICTUS」は、作家の思考の流れを通して生まれるさまざまな場所 (=問題群) に取り組んでいるのです。なお、本シリーズのために描かれたエッセイをまとめた書籍がこの秋に岩波書店より刊行されます。

岡﨑乾二郎
1955年東京生まれ。現在、東京を拠点として活動。2019年、インデペンデント・キュレーター吉竹美香の企画によりBlum & Poe (ロサンゼルス)で開催された「パレルゴン:1980-90年代日本の美術」に参加。これまでに、東京国立近代美術館 (2020年)、豊田市美術館 (2019年、2020年)、BankArt29 (2014年、横浜)、風の沢ミュージアム (2006年、宮城)、東京都現代美術館 (2009年)、セゾン現代美術館 (2002年、軽井沢)、アジャン美術館 (1994年、フランス) をはじめとする多くの美術館で個展を開催してきた。さらには、金沢21世紀美術館 (2018年)、東京都現代美術館 (2015年)、東京国立近代美術館 (2014年)、所沢ビエンナーレ (2011年)、ヴェネチア・ビエンナーレ第8回建築展 (2002年)、第12回パリ・ビエンナーレ (パリ市立近代美術館、1982年) をはじめとするグループ展に参加。作品は、広島市現代美術館、富山県立近代美術館、国立国際美術館、東京国立近代美術館、豊田市美術館、千葉市美術館、ラチョフスキーコレクション (テキサス州ダラス) などに所蔵されている。著作は、芸術選文部科学大臣賞 (評論等部門) を受賞した『抽象の力 近代芸術の解析』『ルネサンス 経験の条件』(2001年、筑摩書房) など。新しい教育・創造活動の拠点として創設した四谷アート・ステュディウムではディレクターを務めた。2014年には、スミソニアン・アーティスト・リサーチ・フェローに選出。現在、武蔵野美術大学および東京大学客員教授。

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